大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和40年(ネ)1645号 判決 1967年4月26日

理由

一、大阪産業信用金庫が昭和三二年八月一五日松本忠末から原判決添付の物件目録記載の本件土地につき原判決添付の登記目録記載の第三の所有権移転請求権保全の仮登記を受けたこと、昭和三四年一一月七日右信用金庫から被控訴人に右仮登記の所有権移転請求権の移転登記がなされ、被控訴人が同日右仮登記に基づく本登記をしたこと、本件土地につき、控訴人伊藤彌太郎は昭和三三年一二月二〇日右登記目録記載の第一の(一)の所有権移転請求権保全の仮登記及び同(二)の抵当権設定登記を、控訴人丸三商工株式会社は昭和三四年四月九日同目録記載の第二の(一)の所有権移転請求権保全の仮登記及び同(二)の根抵当権設定登記を経由したものであることは、当事者間に争がない。

二、《証拠》を総合すれば、次の事実を認定することができる。

(一)本件土地はもと松本忠末の所有であつたところ、同人の姉松本文子が代表者として経営する喫茶店株式会社ニユー・フアースト(以下ニユー・フアーストという。)は右信用金庫から営業資金の融通を受けることとなり、昭和三二年八月一二日松本文子はニユー・フアーストの代表者として、右信用金庫と手形貸付、商業手形割引及び当座貸越取引契約を締結するとともに、松本忠末の代理人として、同人においてニユー・フアーストの右信用金庫に対する右契約に基づく債務につき連帯保証し、本件土地につきニユー・フアーストの右信用金庫に対する右債務を担保するため債権極度額金五〇〇万円とする根抵当権を設定し、ニユー・フアーストの右信用金庫に対する右債務が期限までに完済されないときは、右信用金庫において本件土地を右残存債務の弁済に代え、松本忠末に対する一方的意思表示により取得しうる旨の代物弁済の予約をなし、これを原因として同月一五日右根抵当権設定登記及び原判決添付の登記目録記載の第三の所有権移転請求権保全の仮登記をした。

(二)  右契約によるニユー・フアーストの右信用金庫に対する昭和三四年一〇月末頃における残存債務は元利合計金二、〇五七、三九二円であり、当時すでにその弁済期が到来しておつたところ、右信用金庫はその頃東永商事株式会社(以下東商永事という。)に対しニユー・フアースト及び松本忠末に対する右債権及び前記代物弁済予約完結権を右債権額を譲渡価格として譲渡し、その頃松本文子においてニユー・フアーストの代表者及び松本忠末の代理人として右債権譲渡につき承諾を与えたものである。

(三)  東永商事は当時ニユー・フアースト及び松本忠末に対し別に約五〇〇万円のすでに弁済期の到来した貸金債権を有していたところ、東永商事は元来金融業を営むものであつて、不動産業の経営を適当としないところから、その役員等が発起して別に不動産業の経営を目的とする会社として被控訴人を設立することとなり、昭和三四年一〇月三〇日被控訴人が設立され、同日東永商事は被控訴人に対しニユー・フアースト及び松本忠末に対する右約五〇〇万円の債権並びに前記譲受けにかかる債権及び代物弁済予約完結権を譲渡し、その頃松本文子において前同様の資格でこれを承諾し、同年一一月七日関係人合意のもとに前記信用金庫から被控訴人に対し前記仮登記の所有権移転請求権の移転登記がなされたものである。

(四)  被控訴人は同年一一月五日頃右譲受けにかかる代物弁済予約完結権に基づき松本忠末の代理人である松本文子に対し、口頭で、東永商事から譲受けにかかる前記債権の弁済に代えて本件土地を取得する旨の代物弁済予約完結の意思表示をなし、同月七日前記所有権移転請求権保全の仮登記に基づく本登記をなしたものである。

(反証排斥部分省略)

三、控訴人らは、被控訴人は控訴人らの利益を害することを目的として設立されたものであるから、本訴請求は権利濫用であると主張するけれども、被控訴人の設立の目的は前記認定のとおりであり、当審証人中村静哉の証言中右主張に副うかのような供述部分は、原審証人菅郁蔵の証言に対比し、信用しがたく、他に控訴人らの右主張事実を認めるに足りる証拠はないから、控訴人らの右主張は採用することができない。

四、本件債権譲渡につき松本文子が前記資格で承諾していることは前記認定のとおりであるが、右承諾が確定日付ある証書によるものであることは被控訴人の主張立証しないところである。しかし、控訴人らは被控訴人が譲受けた本件債権そのものについて被控訴人と両立しえない法律的地位を取得した第三者ではないから、たとえ、右承諾が確定日付ある証書によるものでなくても、被控訴人は控訴人らに対し前記債権の譲受を対抗しうるものというべきであるので、右債権譲渡につき確定日付ある証書による通知又は承諾がないから、被控訴人は右債譲受を控訴人らに対抗できないとの控訴人らの主張は失当である。

五、そうすると、被控訴人は本件土地の所有権を代物弁済により取得したものであり、仮登記によりその順位を保全された右所有権に抵触し、右所有権移転請求権保全の仮登記後になされた控訴人らの前記各登記は被控訴人に対抗できないものとして抹消すべきものというべきであるから、被控訴人の本訴請求はすべて理由があり、これを認容した原判決は相当である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例